音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

MANDO DIAO『Bring ‘em In』(2002)

MANDO DIAO/『Bring ‘em In』

 新品、新商品よりも、古着とかヴィンテージ家
具のように傷があるものの方が、特別で魅力的に
感じる。音楽に関しても同じ。もとは希少な60年
代もののデニムやら革ジャン。汚れたり、糸がほ
つれたりする。それに愛着が湧く感覚。完璧な音
楽を求める音楽マニアには分かりえない感覚なの
だろうか。MANDO DIAOの1stアルバムは少々
傷アリな超名盤だ。

 グスタフ・ノリアン(vo.g)とビョルン・ディク
スクウォット(vo.g)を中心にスウェーデンで結成
された5人組。1995年には前身バンドを結成し、
4年後に現メンバーに落ち着く。そこから地元ホ
ーレンゲでライブを行うようになる。次第に注目
され、EMIと契約し2002年には1stアルバム『ブ
リング・エム・イン』をリリースする。

 イェーイェーイェーッ!!と、若さと衝動をま
き散らしながらも、サビを中心に哀愁を漂わせる
サウンドが融合されたロックンロールナンバー
M1“Sheepdog”。彼らがバンドを始めたきっかけ
は「退屈な田舎町を飛び出したい」との衝動から
きたものだ。俺たちについて来い、そう羊の番犬
がいうように、MANDO DIAO自身がその時代の
先頭を切っていこうとする姿勢が全面に出ている。
だが、その思いが時に技術面に影響をきたすこと
もある。勢い余ってリズムにズレが生じてしまう
のだ。ファーストだから仕方がない?演奏は数を
こなせば上手くなるもの?いや、そういうことじ
ゃない。荒々しくて、ぐちゃっとなってしまって
も抑えきれないこの衝動的なサウンドがなければ
『ブリング・エム・イン』はここまで傑作と評さ
れていないだろう。それが彼らの味なんだから。

 彼らはオリジナルなインスピレーションはビー
トルズによるものだという。それが顕著に表れて
いるのがM13“SHE’S SO”。中期ビートルズを彷
彿とさせる、色彩豊かなサウンドをベースにサイ
ケデリックなナンバー。高速リフで駆け出す
M2“Sweet Ride”、疾走感たっぷりのロック寄り
のポップソングM5“The Band”などキャッチ—な
楽曲とはジャンルすら超えている気もするが、ど
れもMANDO DIAOらしさが色褪せていない。グ
スタフの息継ぎさえも聞こえるほど力強い歌声と、
一変してビョルンの愁いを帯びた渋い歌声。柱と
柱にある程度の距離が存在することで、彼らの音
楽にさらなる可能性を与えているのではないだろ
うか。

 1stを聴いた時の強い衝撃は2nd以降では現れ
なかった。なんとも落ち着いてしまった感が否め
ない。それが大人っぽいビターな雰囲気を匂わせ
る5thに繋がったようにも思えるが。しかし現在、
MANDO DIAOは、電子音とシンセを駆使したエ
レクトロポップバンドへと化した。いったい彼ら
はどこまで進化していくのだろう。結成から20年
という月日が経った今、『ブリング・エム・イン』
を聴く。なんといっても若さ、勢い、衝動が際立
つ。そこで生まれる傷に心を奪われた。一度愛着
が湧いてしまうと、その思いは時が経つごとに増
すばかりだ。まさに古着のように。(長嶋 桃香)