音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

フジファブリック『FAB FOX』(2005)

フジファブリック『FAB FOX』(2005) 

 小さい頃から音楽が好きで、よく聴いていた。
"名曲"と言われる音楽たちの歌詞に励まされ、
生きる糧としていた。だけどいつも退屈なのだ。
もっと音楽に衝動を感じたい。サウンドだけで踊
り出したくなるような、泣きたくなるような、そ
んな感覚を音楽に求めていた。

 2005年発売、フジファブリック2ndフルア
ルバム『FAB FOX』。全12曲、ダンス、オルタナ、
バラード・・・様々な表情を見せてくれるこのア
ルバムは、初期のフジファブリックを投影した代
表作であり、フロントマン志村正彦の奇想天外さ
が際立つ一枚だ。

 大学時代、双子の妹に半ば無理やり⑩「虹」を
聴かされたのが最初の出会いだ。その時は、"個
性的"という感想しかなかった。歌詞重視の音楽
しか聴いてこなかった私は、彼らの曲を表面的な
国語でしか理解しようとしなかった。言葉の意味、
サウンド面でのアプローチを聞こえるままに受け
取り、本質に迫る事をしなかったのだ。

 フジファブリックの魅力は、あの独特の"歌詞
(歌い方)"と"メロディ"にあると思う。志村正彦
(Vo&G)は、自身の内側に潜むひねくれた心情や、
人が目を付けない部分に着目し、それをきちんと
"言葉"にしてくれる。③「銀河」では、お経を読
むような一定の歌い方で”タッタッタッ タラッタ
ラッ タッタッ”と駆け足言葉で冬という季節を歌
い上げる。サビを駆け足にする発想と疾走感溢れ
るメロディラインが斬新で、何度も頭の中でルー
プした。⑫「茜色の夕日は」”防災無線から聴こ
えてくる夕方の音"を思い出させるシンセ音が印
象的だ。どこか懐かしく、歌詞も上京してきた私
には共感出来る内容で、”晴れた心の日曜日の朝
誰もいない道 歩いたこと”この一文が特にお気に
入りで、繰り返し聴いた。

フジファブリックをきっかけに、他の邦楽バン
ドや洋楽もかじるようになり、あの時理解出来な
かった⑩「虹」という曲が、こんなにもカッコい
いことに初めて気付くことが出来た。これからど
んな音楽が始まるのだろうとワクワクさせてくれ
るイントロに、危うく電車の中で飛び跳ねてしま
いそうになった。歌詞をすっ飛ばしてサウンドだ
けで音楽が楽しい、踊りたくなるような衝動は、
私がまさに”音楽に求めていたもの”だった。

 このアルバムは、聴けば聴くほど彼らの魅力が
滲み出てくる珍味のようなアルバムだ。現在、三
人で活動を続けるフジファブリック。新体制には、
初期の頃よりもテクノロック色の強い音楽性を感
じる。それは、フロントマンを務める山内を中心
とする制作に関わるメンバーの個性が強く出てい
るからだろう。新体制が奏でる音楽にも変わらず
魅力を感じるのは、『FAB FOX』のお陰で、様々
な音楽の楽しみ方や表現の仕方を知ることが出来
たからだ。フジファブリックが、私の人生を新た
なものに変えてくれたのだ。(酒井麻衣)