音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

FUNKIST『SUNRISE 7』(2009)

FUNKIST『SUNRISE 7』(2009)

 「休憩時間じゃねぇぞー!」という声が聞こえ
た瞬間、私は脇目もふらずにモッシュピットへ駆
け出した。これが私とFUNKISTの出会いである。
地元長崎のフェスで初めて出会った彼らの音楽は、
当時ラウド・ミュージックに傾倒していた自分の
中へ驚くほどスムーズに染み込んできた。とりわ
け、ステージで披露された最初の曲「BORDER」
にのめり込み、これが音源を手にするきっかけに
なった。
                   
 音源を聴き始めた当時、私は歌詞よりも楽器隊
の織り成すリズム・メロディに注目していた。音
楽のルーツとしては、南アフリカ人のバレエダン
サーと日本人のフラメンコギタリストを両親に持
つボーカル・染谷西郷が中心となっている。アフ
リカ圏の民族音楽をイメージさせるリズム隊に、
明るくも切なくも聴こえるアコースティックなギ
ターの音色。草原を気ままに吹き抜ける風のよう
なフルートの音色。このアルバム唯一のインスト
ゥルメンタル曲「ケイジアに吹く風」を聴いて、
私はフルートに対するイメージが覆された。クラ
シックとは明らかに違う、荒々しさと力強さ。あ
んなに小さくか弱そうな楽器から、こんなに芯の
通った音が出せるのかと驚かされた。 
   
 そこに染谷のソウルフルで情感あふれる歌声と、
等身大の歌詞が混ざり込む。彼の紡ぎ出す言葉は
基本的にストレートだ。直球すぎて、時に痛々し
さすら感じてしまう。 
  
<傷つく度に僕らまた 優しさを覚え涙するんだ
な>(M1 GO NOW)         
<常識や世間の目 そんなのどうだっていいんだ
よ>(M4 style)   


 まるで必死に自分自身を鼓舞しているようだ。
一歩間違えばただの綺麗事にも聞こえてしまうよ
うな歌詞がこんなにも説得力を持って発されてい
るのは、彼自身がその見た目で差別を受けていた
過去が一端となっているだろう。「見た目が日本
人ではない」それだけで好奇の視線を浴び、時に
心無い言葉を浴びせられる。その時の心情を、私
には考えることしかできない。もしかすると、自
身に流れる異国の血を恨むこともあったかもしれ
ない。私がFUNKISTを知るきっかけとなった曲
「BORDER」。この曲はおそらく、染谷が生きて
いく中 で自分と他人の間に見つけた違和感を、
どうにかして飛び越えようとする姿そのものなの
だ。そのむき出しの心から、何に対しても逃げ腰
な自分の姿と向き合うことを教えてもらった。ま
っすぐな彼の声は今も、私の心を掴んで離さない。

 生活の中で、自分の心にもたくさんの違和感が
まるで壁のようにそびえ立っている。日常的に感
じる怒りや、夢へ向かうことへの恐怖感。それを
自覚するたびに、私は「BORDER」を聴いて自分
と向き合い、「GO NOW」を聴いて自分を奮い立
たせている。自分の心の壁を越えるため、これか
らずっと聴き続けることになる1枚だ。(加藤円)