音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

19『音楽(ことば)』(1999)

19『音楽(ことば)』(1999)

 

 『音楽で話そう 言葉なんて追い越してさぁ…
この地球(ほし)の音楽(コトバ)で…』と朗読
から始まるアルバム。この当時私が30歳だったら、
きっと速やかにヘッドホンを外していただろう。

 19(ジューク)は、広島県出身の(岡平)け
んじ、(岩瀬)ケイゴによるデュオとヴィジュア
ルプロデュース、作詞を担当する佐賀県出身のイ
ラストレーター326(ミツル)の3人グループ
で、1998年にデビューを果たした。

 世間に出ている音楽は、自分がカラオケで歌え
るようになる為だけに聴くものだと思っていた私
は、SPEEDや安室奈美恵などを聴く事が多かった。
誰が作詞をして、誰が作曲をしている、なんて全
く興味がなかったし、1曲1曲が完璧に作り上げ
られ過ぎていて、人が音楽を作り出しているなん
て認識も全くなかった。最初から最後まで機械的
に出来上がったであろう流行りのCDをレンタル
して、せっせとテープに録音して、それをカラオ
ケで歌えるように練習するのが私の日常であり、
音楽との触れ方だった。

 そんな中、19の1stアルバム『音楽』と出
会った。この時彼らは「あの紙ヒコーキくもり空
わって」を既に大ヒットさせ、デビューからわず
か1年で紅白歌合戦への出場も果たしていた。今
更な感じはあったが、なんとなくその名曲が収録
されたアルバムを手に取った。高校1年生の冬休
み、生臭い鮮魚売場で生まれて初めてのアルバイ
トをして、生まれて初めてのお給料を受け取った
日だったのを覚えている。

 そのアルバムを聴くと、326・けんじ・ケイ
ゴは確かにそこに存在していた。326の背中を
押してくれるような優しい詩。けんじの少し不安
定な高音とケイゴの包み込むような暖かい低音の
声。それらと曲・演奏が融合し、各々の魅力を最
大限に引き出していた。「あの青をこえて」「西
前進2000年→~新~」「あの紙ヒコーキくも
り空わって」はシングル収録曲ということもあり、
恐らく思考錯誤が繰り返され、少し作り込まれた
感じがあったが、その分力強く、完成度の高いも
のになっていた。そして、音楽が最初から最後ま
で人の手によって生み出されている事を一番認識
させてくれたのが「三分間日記」だった。曲が始
まる20秒前からのメンバー同士の会話、作りす
ぎない演奏と歌声が収録されていた。この瞬間に
しか出せない未完成さが新鮮で、リアルだった。

 当時の彼らが作り出す『音楽』は、等身大で青
臭くて、切なくて、青春そのものだ。だからこそ、
もっと早く出会っていても、もっと遅く出会って
いても、きっとダメだった。ダサい制服に身を包
み、田んば道を必死に自転車で走っていた高校時
代でなければ、それを素直に受け入れる事は絶対
にできなかった。この『音楽』は”コトバ”と”音
楽”、そして”青春”が起こした化学反応であり、
いつまでも私の中に存在し続けるのだ。黒田ミキ