音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

Hi-STANDARD『MAKING THE ROAD』

音小屋第6期音楽ジャーナリストコース 最終課題「生涯のベスト・アルバムのライナー・ノートを書く」

 

Hi-STANDARD『MAKING THE ROAD』

文・糸日谷友

 

 夜中にYou Tubeで「AIR JAM」の映像を見てた。「AIR JAM」は1997、1998、2000年と行われた、Hi-STANDARDが企画・主催したインディーバンドを中心にしたフェスだ(今から見たらフェスだけど、当時はフェスって言葉も定着するずっと前だった)。会場は当時10代ぐらいのオーディエンス達でパンパンで、そいつらは曲に合わせてうねりながら渦のようになって、あちらこちらでダイブやモッシュが繰り広げられてる。みんなびっくりするぐらい短パンにTシャツで首にはタオルだ(笑)!ステージはほんとライブハウスを持ってきたみたいにシンプルで、2000年なんかは広いマリンスタジアムにちょっと不釣合いなぐらいで、でもなんだろう、演奏されてる「Growing Up」「STAY GOLD」とかを聴いていたら胸がザワついてしまって眠れなくなってしまって、思わず奥の棚から当時のアルバムを取り出してずっと聴いてた。朝になるまでずっと聴いていた。

 

 Hi-STANDARDは僕の人生の中で一番大きな影響を与えたアーティストかも知れない。いや、影響を与えたなんてそんな偉そうなものじゃなくて、いろんなものを見せてくれた、教えてくれた、そんな存在だ。

 

 改めて書くとHi-STANDARDは、

 

難波章浩(ボーカル、ベース)

横山健(ギター、ボーカル)

恒岡章(ドラムス)

 

の3人からなるメロコアバンド、日本でメロコアというジャンルを作り上げたバンドだ。ミニ・アルバム『LAST OF SUNNY DAY』でデビューし、1stアルバム『GROWING UP』(海外盤を含め70万枚を超えるセールスを記録)、2stアルバム『ANGRY FIST』、3stアルバム『MAKING THE ROAD』(オリコンチャート初登場3位、インディーズとしては異例のミリオン・ヒットを記録)をリリースしている。それは3ピース最小限の体制で、早くてノレてメロディクなパンクハードコアの音像のなかに、ユーモアとインディペンデントを振り撒いた音だ。

 

 とか言いつつ、ハイスタを初めて聴いたのはいつ頃かはっきり覚えてなくて、「~~ステレオから流れ出た音に衝撃が走った‥‥」みたいな感じだったらかっこいいんだけど、確か高校1年生ぐらいの時に友達に『ANGRY FIST』を借りて聴いたのが初めてだったと思う。その時もハイスタって知らなくて、音楽詳しい友達にいろいろ貸してあげるよって感じで何枚か借りてその中の1枚だった気がする。さらに聴いた瞬間にズドーンと来た記憶もなく、なんとなく聴いていたのだが、ビビッときたのはその頃手に取ったフリーペーパーを見た時だ。ハイスタのインタビューが載ってて、メンバーは短パンに上はチャンピオンのスウェットなんかで、ほんと普通のちょっとやんちゃな兄ちゃんって感じだった。その頃の周りにあるバンドというとラルクとかグレイとかちょっとヴィジュアル系っぽくてちょっと遠い世界にある感じだったから、なんかこんな等身大の人たちがやってるのかって思った。それから気になって歌詞カードを見ながらもう一度アルバムを聴いてみた。そこで「ENDLESS TRIP」という曲を聴いて、はまった。2分16秒の曲だ。ちょっと歌詞を引用してみる。

 

 「~~不思議な夢の中にいるみたいだ/どういう訳か俺たちはこきたないバンに乗ってるんだ/ポップソングがラジオから流れている/他のヤツらは犬みたいに眠っちまってる/全身入墨をいれたクールガイがバンを運転している/彼は舌に太いピアスをしてるんだ/理由なんかどこにもない/俺達は毎日ただひたすら進み続け音楽を作り続けるだけなんだ(以上抜粋)」

 

 彼らは、自分達の好きな音楽を、自分達の手で、自分達の力で、自分達を待つキッズに届ける、そんな旅は終わることなく続いていく。そんな世界に当時高校一年の俺は瞬間的に猛烈に憧れてしまったんだ。青春とか、若さってってこういうことなのかって思った。逆に言うと高校一年生でありながら俺はそんなものは全く感じていなかったんだ。偏差値50程度のごく普通の高校、周りは「だりぃ」「めんどくせえ」しか言わねえ。退屈な授業を居眠りしながら過ごすともう一日は終わっている。何も積み重ねられず、先何も始まらない毎日。でもそれは違う!自分が求めるもの、それは自分自身の手で切り開き、掴み取るものだったんだ。「ENDLESS TRIP」のそんなメッセージは跳ねる様なギターのメロディ、刻まれるドラムのリズム、英語のヴォーカルと供に全てが一体となって耳を駆け抜けていった。

 

 聴き終わって俺は今まで感じたことの無い高揚感に、思わず寝転んでいたベットから飛び起き立ち上がった。そして今自分にできること、今自分がなすべきことを探した。ただもう夜中だったので、とりあえず部屋をウロウロするだけにとどまった。そして次の日に『MAKING THE ROAD』を買いに行った。しばらくしてからなけなしの小遣いをはたいて『GROWING UP』そして『ANGRY FIST』も自分で買った。そして夜な夜な、イヤフォンを耳にしながら立ち上がり身体をクネクネさせて、時折飛び跳ねながらアルバムを聴きまくった。とにかく当時、今までこんなこんな音楽は聴いたことがなかった。そもそも音楽を聴く、音楽の力っていうのはこういうことかと思った。聴いてると身体が動かさざるを得なくなるんだ。そしたらある日「早く風呂に入れ!」とドアを開けた母親にイヤホンをつけながら不気味に蠢く姿を見られ、ただ全然恥ずかしくないどころか、むしろ興奮気味にそのイヤホンで無理やりハイスタを母親に聞かせた。母親は流れてくるうるさい英語の曲を聴いて心底意味不明といった顔をしていた。

 

 気付くと身の回りではハイスタはものすごい勢いで広まっていった。友達がバンドを組んで地元のライブハウスに言った。そうライブハウス、ライブってものを教えてくれたのもハイスタだった。ちっちゃな小屋に重い扉を開くと耳がつんざく様な馬鹿でかい音(次の日、学校では耳が聞こえないとクスクスはしゃいでいた)!ベース、ドラムの響きは腹まで溜まっていった!ライブが始まるとモッシュ、ダイブが繰り広げられる。そう、もみくちゃになっている間に気付くと周りに押し上げれて、そしてしまいには自分から飛び込んでいった。ダイブしている時の頭が一つ抜けてオーディエンスが端まで見渡せる、あの感覚!雲の上にいるみたいだった。そこには協同意識があり落ちると周りはすぐに支え起き上がらせてくれた。倒れこまないように手を取り合い、大丈夫か!の声が駆け渡り合う。もちろんそれは今日初めて会うやつらばかり。バンド、楽曲を通して全然知らないやつら同士がこんなにも心を通わせられるのかと思った。ただ、こんな失敗談もあった。野外の結構広い会場のライブで夢中になってもみくちゃにされて、気付いたら靴が片足脱げてしまい、ヤケクソになってもう片方も靴も空中に投げ入れた。ライブが終わって靴を探すと脱げた靴は見つかったが自分が投げ入れた方の靴は見つからず、結局片足だけ裸足のままトボトボと帰ったんだ(笑)。

 

 つらつらと書き連ねてしまったけど、冒頭の夜もずっと身体をクネクネさせながら聴いてた。ハイスタは新しい世界、自分の知らない世界を見せてくれたんだ。世の中にはまだまだ自分の知らない世界がたくさんある。めちゃめちゃ面白かったり、はちゃめちゃだり。実際、彼らをきっかけに洋楽、オールドロック、メタル、さらにはポストロック、テクノ、ヒップホップまでと広がっていった(Creedence Clearwater Revival 、KISS、The Whoエルヴィス・プレスリーとカバーの楽曲がほんとに豊富!あと「はじめてのチュウ」も!)。音楽だけでなく、実生活でも新しいこと未知の世界に飛び込むときには背中を押してくれた。自分でやらなきゃってことを教えてくれた。それは彼ら自身が開拓者であり、先駆者であったこと、彼ら以前にそんなアーティストはいなかったんだ。そのアティテュードそのものがなによりも魅力だった。『MAKING THE ROAD』まさしく彼らは道を創ったんだ。

 

 彼らは2000年の「AIR JAM 」から活動休止に入った。それぞれのソロの活動が続き、ハイスタとして人前に立つことはなくなってしまった。ちょっとしたボタンの掛け違いから、そのほつれは大きくなり、はたから見ると一時期はメンバー同士、憎みあっていたように見えた。ただ、ここではそんなことについては詳しく書かない。それを経て彼らは2011年、東北の震災を契機にまた「AIR JAM 」で再会した。自らが動く、動き続けるという彼らの姿は何一つ変わっていなかったんだ。その時の映像を見た。難波、横山、常岡は肩を抱きながら、あの時の曲を演奏していた。

 

 いろんな人たちに曲を聴いてほしいと思う。これは3st『MAKING THE ROAD』のライナーノーツだが、気付いたら思い出話だけで全然曲に触れていない!ただ、この文が何かのきっかけになればいいと思う。当然、このアルバム以外の全ての曲が必聴だ。別に新たなものに触れる、新しい世界に飛び込み、そんなことに恐れないでほしい。もちろんそれは自分自身がなすべきことをなした上でのことだ。それに気付くことに老いも若いも、今も昔も何も関係がない。

 

 筆を置く終盤になってこれは自分に向けて書いていることに気付いた。よし、今日はハイスタを聞いて会社に行こう!うおー、死ぬときゃ葬式でもかけるぞ!