音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

BUMP OF CHICKEN 『jupiter』

BUMP OF CHICKEN 『jupiter』

 BUMP OF CHICKEN、彼らの音楽は、高校生時
代の私を語るに必須である。あの時に出会わなけ
れば、今の私はここにいない。音楽に触れること
が、ライブを楽しむことがこんなにも幸せである
ことを教えてくれた。そして、私自身の可能性を
さらに広げてくれたのだ。気づけば、バンドを組
みたい、音楽ライターを目指したいという思いを
抱いていたのも彼らに出会ったからだ。
 あの日とは、中3の英語の授業のこと。授業開
始のベルが鳴って着席し、まず私の目に飛び込ん
できたのは机の上のラクガキだった。エンブレム
の形に「BUMP OF CHICKEN」の文字が描かれい
た。当時の私は、本物のチキンを想像しており、
その思いを机に書き込んだとき彼らの音楽と出会
った。次の日、英語の授業に行くとまた机に謎の
エンブレムと2,3行の文が書いてあった。この
絵は4人組のバンドのロゴであること、おすすめ
の曲は‶天体観測″や‶魔法の料理″‶カルマ″など
約10曲記されていたから驚いた。もちろんつまら
ない英語の長文読解なんか全く頭に入ってきてく
れなかった。
 初めて手にしたアルバムは、私の一番好きな、
天体観測″が含まれる『jupiter』である。この
アルバムは、2002年2月に発売されそれまでのシ
ングル3曲が組み込まれている。最初は‶天体観測
メインで聴く予定だった。しかし1曲目‶Stage
Of The Ground″で「絶望と出会えたら手をつな
ごう」という歌詞にドキッとしてしまった。変拍
子にのせてリズムを刻みたくなるポップなメロデ
ィーとは裏腹に、大事なことを、ごまかさないで
歌や旋律にのせて叫んでいるその姿に魅せられた
のだ。続く‶天体観測″は彼らのデビュー曲であり
代表曲ともいえる。はじき出されたエレキギター
の音が、耳に響くその瞬間に駆け出したくなる衝
動に襲われた。いつかこの曲を持って星を見に行
きたくなるような、ただ純粋に輝いてみえた。か
わって‶ベンチとコーヒー″はベースの刻みが心地
よく、何気ない日常をベンチの傍から眺めている
風景の歌詞は落ち着きがあって、つい自分と重ね
てしまう。人を羨ましく思うところ、強がってし
まうこと。でも、最後の歌詞の「冷たいコーヒー
があたためてくれた」はこの曲が私を温めてくれ
るんだと勝手に解釈している。もっと言えば、こ
のアルバムがいつでも自分の心を温めてくれるコ
ーヒーだ。歌詞にある強いメッセージだけじゃな
い、それ以上の思いがVo.藤原やBa.直井、Gt.増
川、Dr.升にあるから私の心に響いたのだ。
 彼らの音楽は、私の人生を変えた。あの偶然の
出会いが、バンドを組みたいと思ったこと、音楽
ライターの道を考え始めたことに繋がった。私は
これからどれだけの偶然や必然、喜びや悲しみに
出会えるのだろう。このアルバムは、この先の私
の人生で出会うもの全てを愛していけるような強
さをくれた、とっておきの1枚だ。  松本実奈