音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

The SALOVERS 『C’mon Dresden.』(2010)

The SALOVERS 『C’mon Dresden.』
 
 私にとってのヒーローはサラバーズだ。彼らの
音楽に出会ったのは、十代の音が詰まった「閃光
ライオット2009」のコンピレーションアルバムだ
った。この年の「閃光ライオット」を観に行った
わけでもなければ気になるバンドがいたわけでも
なく、SCHOOL OF LOCK!というラジオを聴き始
めたばかりだった私は、690円という安さに負け
てCDを手にしていた。そしてThe SALOVERSの
「夏の夜」という曲を聴いたのだ。“幽霊たちは
今夜も酒盛りをして後悔思い出話歌にしよう あ
いつら人間には内緒だぜ”。ゆったりと落ち着い
た歌声で少し懐かしさを感じさせるようなメロデ
ィのこんな曲を歌う彼らを、私は大人びていると
感じた。しかし、その後にこのアルバムを聴いて
その考えは覆され、ちっとも大人びてなんかいな
いじゃないかと気づかされる。大人びていると思
ったのは、大人ぶっているの間違いだった。

 彼らは等身大の音楽しか鳴らしていない。そう
感じさせたのが1曲目「China」。“僕らは何かと
差をつけたい”“僕らは何かを失いたいんです”と
歌うこの曲はどこか寂しげで、自分でもなんなの
か分からないものに必死にもがく少年の歌だと思
った。激しいノイズとシャウトのカウントからな
る「CityGirl」は歌詞を分かろうとするほどに
分からなくなる。それでも惹かれるのは、ボーカ
ル古館佑太郎の叫ぶようなしゃがれ声と、生々し
い演奏にあるのだろう。彼らの圧倒的な特徴は古
館の声だ。決して美しいとは言えないその声が聴
いているうちに愛おしいものになっていたから不
思議だ。

 彼らの曲は歌詞の意味が分からないものが多く
ある。「Night in gale」もそうだと思ってい
た。しかしこれはあの有名な看護師の歌などでは
ない。“ナイトインゲール”。夜の寂しさを歌う曲
だったのだと、言葉を一つ一つ並べたような歌詞
に気づかされる。この少年は風が強く吹く夜に、
あの娘のことを想って唄うのだ。“ナイチンゲー
ル ナイチンゲールナイト 泣いている 泣いて
いるんじゃない”と敢えて“ナイチンゲール”と歌
うところに、遊び心を感じる。

 「サリンジャー」。この曲は何回も聴いている
のにいつも鳥肌が立って高まる気持ちを覚える。
300人キャパのライブハウスで最前列で聴いたと
きのことを思い出すからだ。感情を剥き出しにし
て叫び、ただその瞬間を掻き鳴らすその姿は最高
にかっこよくて最高にダサかった。この時から、
彼らは私にとってのヒーローになったのだ。“き
っと僕らの言葉は宙を舞い 何かを求めて彷徨い
続けてる” “いつだっけ僕らは 何もないのに
 失くしたふりして迷ってる”。これが彼らのす
べてなんだと思った。自分たちの音楽がどこに行
くかも分からない。それでも彼らは鳴らし続ける。
それは、彼らがものすごく寂しがり屋で、聴いて
くれる貴方を求めるからだ。そんな弱い部分を曝
け出す彼らだからこそ、感情のままに鳴らす尖っ
たサウンドも、愛おしくさせるのだ。(八川光)