音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

YUKI『PRISMIC』(2002)

YUKI『PRISMIC』

 ジュディマリこと、JUDY AND MARYがデビュ
ーしたのは1993年。YUKIが21歳の時。ミスチル
スピッツGLAYらが台頭した90年代のバンド
ブームに埋もれることなく、惜しまれながら2001
年に解散した。そして翌2002年には、シングル
『the end of shite』でソロデビュー、同じ年
に1stアルバム『PRISMIC』をリリースする。こ
の時YUKIは30歳。

 タイトルはYUKIの造語で、意味は「光の音」。
1曲1曲がバラバラのやりたい放題で、アルバム
としてのまとまりはない。ジュディマリの名残を
感じるロックもあれば、アコースティックギター
のバラード、エレクトロのラップ、スピッツが演
奏に参加している曲もある。その多様性から、
ジュディマリの染み付いたイメージを払拭しよ
うとしているわけじゃないよ」というYUKIの必死
さというか、戸惑いも感じる。

 それまでは「JUDY AND MARY」という型があ
った。自分のやりたいことよりも「ジュディマリ
らしさ」が最優先、ネガティブさもポジティブに
表現することが要求された。さらにその「型」か
ら外れそうになれば「そうじゃない」と指摘する
メンバーの存在もあった。だが、ソロのYUKIには
それはもうなかった。決めるのはすべてYUKI自身。
プレッシャーもある中で、我慢していた表現や感
情を手探りでとにかく詰め込んだ、30歳のYUKI
がこのアルバムなのだ。

 でもYUKIは、手探りの30歳だった自分も大事
にしている。これまでにリリースされたベストア
ルバム2枚にはいずれも1stから3~4曲選曲され
ており、特に『プリズム』はどちらのベスト盤に
も共通して収録されている。ピアノの旋律が美し
いメロディ。歌詞には「光の音に導かれてここま
で来たけど」というフレーズがある。光の音。
YUKIの1stアルバム『PRISMIC』の直訳だ。そし
て2012年の紅白歌合戦でも歌われる。2012年、
YUKIは40歳。『プリズム』はジュディマリが解
散してから1年足らずでリリースされた。YUKI
出せるキーをぎりぎりまであげてある。それを歌
うことは、ジュディマリのボーカリストYUKIが持
っていた歌唱力が、ソロシンガーYUKIとなっても、
さらには年齢を重ねても衰えていないことを教え
てくれる。それと同時に、当時の戸惑いや開放感
を懐かしみ、感謝の意を表している。

 今のYUKIは母性で溢れ、ピンクのエクステをつ
けて、ゴールドのアイシャドウをしていたジュデ
ィマリの面影は感じられない。「あたし」と歌っ
ていた歌詞は「わたし」という一人称に変化して
いった。だが、外見や考え、はたまた名字が変わ
っても、YUKIはその時の自分をそのまま歌ってい
るだけ。だからYUKIのアルバムは日記帳のようだ。
その時どんな恋愛をしていたか、どんな楽しいこ
と、悲しいことが起きたか。これからもページは
増えていく。現在YUKI、42歳。(菅野美咲)