音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

Vampire Weekend『Vampire Weekend』(2008)

Vampire Weekend『Vampire Weekend』 

 アーティストは音楽のみならず、ファッション
や、言動により何がしかのイメージを抱かれる。
それらのイメージを排除して、純粋に音楽だけを
評価することに一体何の意味があるだろう。言わ
ずもがな彼らが音楽を規定する価値観は、同じく
音楽以外のイメージにおいても働きかけるのだ。

 ヴァンパイア・ウィークエンド(以下:VW
は現在のアメリカを代表するバンドの一つだ。
2008年発売の1st「ヴァンパイア・ウィークエン
ド」は世界累計で100万枚を売り上げ、2010年
発売の2nd「コントラ」、2013年発売の3rd「モ
ダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ」はどち
らもビルボード200において1位を獲得している。
彼らの魅力は、アフロビートからクラシック音楽
に至るまで、ジャンルレスに取り込んだごった煮
のサウンドと、英文科出身のエズラ・クーニグ
(Vo / Gt)によるコンテンポラリーな歌詞だ。
一般のリスナーのみならず、多くの音楽メディア
からも高く評価されている。

 しかし、音楽性のみでは大ヒットや熱狂には繋
がらないのが現代だ。メインストリームはヒップ
ホップやR&Bが集中し、ロックのヒットもモンス
ターバンドと呼ばれる大物に限られる。DIY精神
をもって、わざわざインディレーベルと契約する
若者たちには充分に考え尽くされたことだ。
 
 VWはデビュー時からファッションやアートデ
ザインなど、ビジュアルイメージに拘りを見せて
いた。ボタンダウンシャツにニットという、いか
にも大学生めいた服装はロックバンドのイメージ
とはかけ離れている。また1stのジャケットも、
インスタグラム調のシャンデリアの写真にバンド
名のクレジット。まるでファッションの広告だ。
歌詞カードもページ毎にベネトン風のカラフルな
配色がなされている。ともかくバンドは自分たち
のイメージをお洒落で固めた。何でもアリの音楽
性が、幅広い教養とセンスの良さに解釈され、ル
イ・ヴィトンやらオックスフォードやらいった言
葉選びも、プレッピーなイメージと相性が良く、
今っぽさに受け取られた。この強烈なイメージ戦
略により、VWは本国のみならず、世界中を熱狂
させることとなったのだ。しかし、イメージを音
楽に結びつけることのできないリスナーは反感を
抱き、彼らに中傷を浴びせた。そこを分岐点に
2nd以降はイメージよりもコンセプト色を強めて
いく。

 無論音楽としての完成度は1stよりも2nd、3rd
が高まっている。しかし、1stは音楽以外の部分
で、その音楽を膳立てする試みがなされたという
点で画期的だ。僕には2ndにおける内省的なムー
ドや、3rdにおける視野の広さを成長と捉えるリ
スナーの中には、いつだって1stの陽気で大胆不
敵な若者像があるように思える。音楽を音楽だけ
で評価する時代はとうに終わっている、それに気
付かせてくれたのがこのアルバムだった。
(廣野佑典)