音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

miwa『gutarissimo』(2011)

miwa『gutarissimo』

 少女が大人になる瞬間を見たことがあるだろう
か。あどけない笑顔や弱々しい涙がどこか力強く
なり、凛として前を向く一瞬である。少女はいつ
まで少女でいられるだろう。大人になりたくなか
った高校生の頃の私は、そんなことばかり考えて
いた。


 シンガーソングライター・miwa。2010年に19
歳でメジャーデビューを果たし、5枚のシングル
リリースの後、2011年にファーストアルバム
『guitarissimo』を発表。アコースティックギタ
ーを抱えた身長149cmの愛らしいシルエットが
シャープに象られていくような、瑞々しさと温も
りに溢れた1枚だ。


 アルバムは、当時20歳の彼女ならではの様々な
表情を捉えた楽曲が詰め込まれている。朗々とし
た歌声とアコギの豊かな音色が高い密度で相俟っ
て、どうにも心地いい。別れの切なさや未来への
不安といった普遍的な感情を、飾らない言葉で紡
いでいく。そしてその全ての楽曲に脆さと柔さが
宿っているのだ。デビュー前に書いたという「つ
よくなりたい」が象徴的。高校生になったばかり
の15歳の頃の私にとって、それはどこまでも共感
の対象で、彼女の等身大の温度感にどこか安堵し
たことを覚えている。


 miwaの歌詞は、あなたという存在にとても自
覚的である。現在もその姿勢は変わっていない。
しかし、その距離感と心情の関係はあの頃と少し
違ったように感じるのだ。少女漫画のような物語
性があり、そばにいるから幸せとか離れるのが寂
しいとか、そんなストレートで主観的な感情が渦
巻いていたファーストアルバムに対し、距離が離
れていても同じ方向を向けるような、背中を押し
てくれるような、そんな楽曲が増えている。この
確とした成長が、ここ数年の女性シンガーソング
ライターブームの中で、miwaが突出した存在で
あり得る理由ではないだろうか。シンガーソング
ライターの歌詞に共感を求める同世代リスナーは
とても多いように感じるが、その先を行く感情の
共有を引き寄せる彼女のソングライティング能力
の高さは、今後も大きな魅力として輝くだろう。


  今、miwaは24歳になった。〈I don’t cry
more〉(“don’t cry anymore”)と叫んだ少女は、
〈きっと涙の数だけ花は大地に咲き誇る〉
(“Delight”)と前を向いて語りかける。最新アルバ
ムではエレクトロサウンドやラップなど新たな音
楽性を取り入れ、ライブではライトハンド奏法で
フライングVを弾きこなす彼女は、アーティスト
として本格的に翼を広げはじめている。


  少女はいつまでも少女ではいられない。いつか

は大人になるし、それに伴って忘れてしまう感情

もあるだろう。もちろん私たち聴き手も同様で、

今18歳になった私の中で、今作はあの頃とまるで

違って響いている。しかし、再生ボタンを押せば

あの頃の感情が蘇る。もう一度押せば前に進める。

iwaの曲を聴いていると、彼女と一緒に大人に
なるのも悪くない、そんな気がしてくるのだ。
(柴沼千晴)