音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

andymori『andymori』(2009)

andymori『andymori』

 日本のインディーロック界において注目を集め 
ていたandymoriがリリースした1stフルアルバム。
彼らの奏でるシンプルなコード進行は60年代の初
期ガレージロックを思い出させ、それに加えて優
しく甘くも感じるメロディは和製リバティーンズ
とも言われている。そんな彼らが『andymori
とバンド名をそのままタイトルにした今作は、音
楽を通して伝えたいことを詰め込んだまさに代表
作とも言える作品だ。アルバムは疾走感溢れる後
藤大樹のドラムで始まる『FOLLOW ME』でスター
ト。そこに小山田壮平の荒々しいギターが重なっ
てより勢いを増し、藤原寛の安定したベースが加
わることでバンドとしての一体感が生まれる。う
ねりのように流れ込んでくる彼らのサウンドは耳
にこびりついて離れなくなってしまう。


 andymoriの音楽を聴いていると、彼らは自身
の音楽活動に使命感のようなものをもって取り組
んでいたように感じる。それはM-12「すごい速さ」
の歌詞"でもなんかやれそうな気がする なんか
やらなきゃって思う だってなんかやらなきゃ 
できるさ どうしようもないこの体どこへ行くの
か"からも伝わってくる。胸に抱いていた何かや
らなきゃというもやもやした感情や衝動を、小山
田壮平はどうにかして伝えなければと思っていた
し、それは音楽という方法で実行された。そして
それを裏付けるかのように、彼はインタビューで
度々「自分が歌わなければ」といったことを口に
している。それは自分の音楽を聴いている身近な
ファンはもちろん、どこかでandymoriの曲を耳
にするかもしれない遠い国の人も含め、たくさん
の人を自分の音楽で救いたいということではない
だろうか。


 そんな思いの表れか、小山田壮平の書く歌詞は
いつも優しく、言葉の選びが美しい。孤独に負け
そうな時、訳もなく虚しさに襲われた時、人は俯
き自分の殻に閉じこもってしまいがちだ。しかし
歌詞には「オレンジの太陽」「青い空」「夕暮れ
の井の頭公園」といった風景描写が多く、曲を聴
いていると自分の周りには美しい世界が広がって
いるという当たり前のようなことに気づかせてく
れる。まるで隣に寄り添いそっと顔を上げてさせ
てくれるような、そんな優しい愛に溢れているの
である。また、「かくれんぼ」「コーラの瓶」と
いった単語は聴く側に幼少期の記憶を思い起こさ

せ、アルバム全体にどこかなつかしい雰囲気も漂

わせている。


 10月15日の武道館公演をもってandymoriは解
散することが決定している。確実に彼らの音楽は 

『FOLLOWME』の衝動的で感情的なものをきっか
けに始まっていたし、デビューからたった5年間と

いう活動期間をまさに『すごい速さ』で駆け抜け

た。きっとこのアルバムはandymoriというバンド

の生き様を表現した“バンドとしての最高傑作”の

]1stアルバムだと言えるだろう。
(近藤那央子)