音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

サカナクション『GO TO THE FUTURE』2007)

サカナクション『GO TO THE FUTURE』

 変わらないまま変わっていきたい。そう、楽曲
ほとんどの作詞作曲を手がける、Vo&G.山口一郎
はつぶやいた。何やらなぞなぞを出題されたみた
い。これは難題。だが、改めて1stアルバム「GO
TO THE FUTURE」を聴いた時、答えが見えてき
た気がしたのだ。なぞなぞの解答はまた後ほど。

 この未来へ進んでいくというタイトルは、自ら
を奮い立たせているように思える。それは誰もが
経験するだろう、自分は何者かというジレンマや
未来への不安、迷いといった長い夜の感情が、飾
らずに表現されているから。最近のJ-Popは、<
寂しい>を<寂しい>としか歌わない。しかし山
口の書く歌詞は比喩や言葉遊びでできている。詩
集を読み進めるように情景が見えてくるのだ。そ
して音楽。オルタナティブロックをベースに、フ
ォーキーで懐かしい温もり。そこにエレクトロや
テクノを意識したリズムや打ち込み、特徴のある
シンセが加わる。デジタルの規則的な響きに生の
バンドが混ざり合い、温かい血を通わせている。
サカナクションの源流風景を感じられる、瑞々し
い一枚だ。

 そしてこれを基盤に、彼らは変化していく。そ
の変化を目の当たりにしたのが、今年行われたツ
アー、SAKANATRIVEで披露された『三日月サンセ
ット』。身体を、会場全体を唸らせるビートと、
メンバーの燃え上がるようなプレイ。真っ赤に染
まったステージ。もうこれこそがグルーヴ感とい
うものだった。みんな思い思いに踊る踊る。縦ノ
リか横ノリかなんて関係ない。まさかデビューア
ルバムの1曲が7年の時を経て、こんなとてつもな
いアレンジとなって聴けるなんて。チームサカナ
クションと称し彼らが信頼する、スタッフ全体の
結束力の賜物であった。

 こうして改めて1stアルバムを聴いた時、この
頃は作りたい音と伝えたい言葉を、純粋に、本能
で音楽にしていると感じた。しかし彼らは、リス
ナーの求めるノリやすさやポップさを敏感に感じ
取り、融合させ、新しい音楽を作り出してきた。
この『三日月サンセット』のように私たちの期待
は裏切られ、更に上をいかれるのだ。そしてデビ
ューから様々なジャンルのフェスや紅白にも、駆
け抜けるように出演してきた。これはクラブミュ
ージックをバンドで体現するというずっと変わら
ない軸と、良い音楽を届けたい伝えたいという変
わらない思いが、ロックの躍動感を求める人にも、
ダンスフロアの高揚感を求める人にも、着実に伝
わってきた証拠だろう。

 以上がサカナクションが変わらないまま変わっ
てきた結果で、今はまだ、深化の過程。そう、私
なりのなぞなぞの答えである。(及川季節)