音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

「私の人生を変えた1枚」のレビューを書く

 音楽ライターの小野島大です。雑誌『MUSICA』の鹿野淳氏が主宰する音楽メディア人養成講座「音小屋」の「音楽ジャーナリストコース」の講師を2013年8〜9月(2013年夏期)、11月〜2014年3月(第6期)、2014年8月〜9月(2014年夏期)、2015年8月〜9月(2015年夏期)の4回にわたってつとめました。


 このブログは、その受講生たちが実際に書いた作品を掲載し、広く一般の方々にも読んでいただく目的で作られました。受講生の中にはすでにプロのライターとして仕事をしている人もいますが、ほとんどは、これから音楽に携わる仕事、わけても「音楽について書く」ことを目指している10代、20代の若者たちです。

 今回新たに掲載するのは2015年夏期講座の受講生たちによる作品です。課題は「自分の人生を変えた1枚」のレビューを書く」というものです。

 字数は22字×54行。これは雑誌『MUSICA』のディスクレビューの大枠の文字数と同じです。この課題に沿って書いてもらったのが、今回掲載した作品です。受講生は12名ですが、今回はそのうち6名分を掲載しています。残りは随時追加していきす。

 音楽専門誌が次々と姿を消し、音楽ライターや音楽メディアの役割も大きく変わりつつある今、こうして「音楽について書く」ことに情熱を燃やす若者が少なからずいることはとても心強いことだと考えています。

 ぜひご一読いただき、印象に残るものがあれば、コメントを残すなり、Add Starを押して☆をつけてあげてください。もちろん、「彼らにぜひ原稿を書いてもらいたい」というご要望も、大歓迎です。

 ひとりでも多くの人達に、彼らの文章が届くことを願っています。

作品はこちらから

 

BUMP OF CHICKEN 『jupiter』

BUMP OF CHICKEN 『jupiter』

 BUMP OF CHICKEN、彼らの音楽は、高校生時
代の私を語るに必須である。あの時に出会わなけ
れば、今の私はここにいない。音楽に触れること
が、ライブを楽しむことがこんなにも幸せである
ことを教えてくれた。そして、私自身の可能性を
さらに広げてくれたのだ。気づけば、バンドを組
みたい、音楽ライターを目指したいという思いを
抱いていたのも彼らに出会ったからだ。
 あの日とは、中3の英語の授業のこと。授業開
始のベルが鳴って着席し、まず私の目に飛び込ん
できたのは机の上のラクガキだった。エンブレム
の形に「BUMP OF CHICKEN」の文字が描かれい
た。当時の私は、本物のチキンを想像しており、
その思いを机に書き込んだとき彼らの音楽と出会
った。次の日、英語の授業に行くとまた机に謎の
エンブレムと2,3行の文が書いてあった。この
絵は4人組のバンドのロゴであること、おすすめ
の曲は‶天体観測″や‶魔法の料理″‶カルマ″など
約10曲記されていたから驚いた。もちろんつまら
ない英語の長文読解なんか全く頭に入ってきてく
れなかった。
 初めて手にしたアルバムは、私の一番好きな、
天体観測″が含まれる『jupiter』である。この
アルバムは、2002年2月に発売されそれまでのシ
ングル3曲が組み込まれている。最初は‶天体観測
メインで聴く予定だった。しかし1曲目‶Stage
Of The Ground″で「絶望と出会えたら手をつな
ごう」という歌詞にドキッとしてしまった。変拍
子にのせてリズムを刻みたくなるポップなメロデ
ィーとは裏腹に、大事なことを、ごまかさないで
歌や旋律にのせて叫んでいるその姿に魅せられた
のだ。続く‶天体観測″は彼らのデビュー曲であり
代表曲ともいえる。はじき出されたエレキギター
の音が、耳に響くその瞬間に駆け出したくなる衝
動に襲われた。いつかこの曲を持って星を見に行
きたくなるような、ただ純粋に輝いてみえた。か
わって‶ベンチとコーヒー″はベースの刻みが心地
よく、何気ない日常をベンチの傍から眺めている
風景の歌詞は落ち着きがあって、つい自分と重ね
てしまう。人を羨ましく思うところ、強がってし
まうこと。でも、最後の歌詞の「冷たいコーヒー
があたためてくれた」はこの曲が私を温めてくれ
るんだと勝手に解釈している。もっと言えば、こ
のアルバムがいつでも自分の心を温めてくれるコ
ーヒーだ。歌詞にある強いメッセージだけじゃな
い、それ以上の思いがVo.藤原やBa.直井、Gt.増
川、Dr.升にあるから私の心に響いたのだ。
 彼らの音楽は、私の人生を変えた。あの偶然の
出会いが、バンドを組みたいと思ったこと、音楽
ライターの道を考え始めたことに繋がった。私は
これからどれだけの偶然や必然、喜びや悲しみに
出会えるのだろう。このアルバムは、この先の私
の人生で出会うもの全てを愛していけるような強
さをくれた、とっておきの1枚だ。  松本実奈

Perfume『GAME』(2008)

Perfume『GAME』

「アイドルとは魅力が実力を凌駕している存在」
そう評したのはRHYMESTER宇多丸だ。実力よ
りも魅力のほうが上回り、その隙間をファンが応
援で埋めていく存在がアイドルであるという話を
聞いた時、顎が胸にめり込むほどに首肯した。私
がアイドルに抱いていた気持ちを、正に的確に射
抜いていたからである。

 田舎住まいでライブに行けず、ひたすらに音楽
雑誌を読み込んで様子を想像していた中高時代。
初めて念願のライブに行ったとき、バンドが奏で
る生音に圧倒された。その瞬間にしか流れない音、
生々しい息遣いの歌声。これこそが音楽の醍醐味
だと感じた。オケで歌うのを聞いたって何の意味
もない、口パクで踊るアイドルなんてばかばかし
い。そんなガチガチな私の価値観をあっさりと叩
き壊してくれたのがPerfumeで、私の人生を変え
た1枚は彼女たちの1stアルバム『GAME』だ。

 友人に勧められたものの「アイドルなんて」と
聴きもせず拒否しかけたが、テクノポップのピコ
ピコした、それでいて研ぎ澄まされたような硬軟
混ざり合うサウンドが、それまで聞いていたバン
ドとはまた違う魅力として響いた。電子音に女の
子の不安定な歌声が妙にバランスよくマッチし、
自分の中でだんだん心地よく馴染んでいった。

ポリリズム」「チョコレイトディスコ」と
Perfumeを表舞台へ引っ張り出した曲が目に付く
『GAME』。テクノポップの人工的な音に乗せ中
田ヤスタカの描く「PlasticSmile」「セラミック
ガール」など人工物に例えられた女の子の世界を、
生身の女の子たちが淡々と歌う。ステージでは人
形のような正確さでダンスを刻み、一歩間違えば
作り物過ぎて不気味にさえ映るところを、ぎりぎ
りで可愛い範疇にPerfumeは踏みとどまる。必要
以上にウエットにならないが故に、それが却って
生身の女の子の存在感や輝きを強める。聞き手に
感情の部分を委ねる余白を持たせたことで、より
鮮やかにPerfumeの描く世界は彩られるのだ。与
えられた歌を唄わされても、曲がオケであろうが
リップシンクだろうが、感動を与えるという力に
はまるで影響しないと言うことを教えてくれた。

 アイドルはバンドと違い、本人より周りの大人
の意向が優先されがちだ。更に年齢というタイム
リミットと戦いながら切磋琢磨していかねばなら
ず、だからこそ実力以上の輝きを増すとも言われ
る。Perfumeはアイドルではないという人もいる
だろうが、私は今もアイドルであると捉えている。
いつの間にか「アイドル」という看板をそっと下
ろしたように見えるPerfumeだが、冒頭の宇多丸
の提唱する定義に当てはめると、ますます伸びゆ
く実力を常に僅かに魅力が上回っていると感じる。
年齢に関わらず「アイドル」として、自ら道を選
択し長く愛される存在になると信じている。

 『GAME』は私のアイドルへの偏見を打ち砕き、
人生を変えてくれた一枚に他ならない。高野ゆり

フジファブリック『FAB FOX』(2005)

フジファブリック『FAB FOX』(2005) 

 小さい頃から音楽が好きで、よく聴いていた。
"名曲"と言われる音楽たちの歌詞に励まされ、
生きる糧としていた。だけどいつも退屈なのだ。
もっと音楽に衝動を感じたい。サウンドだけで踊
り出したくなるような、泣きたくなるような、そ
んな感覚を音楽に求めていた。

 2005年発売、フジファブリック2ndフルア
ルバム『FAB FOX』。全12曲、ダンス、オルタナ、
バラード・・・様々な表情を見せてくれるこのア
ルバムは、初期のフジファブリックを投影した代
表作であり、フロントマン志村正彦の奇想天外さ
が際立つ一枚だ。

 大学時代、双子の妹に半ば無理やり⑩「虹」を
聴かされたのが最初の出会いだ。その時は、"個
性的"という感想しかなかった。歌詞重視の音楽
しか聴いてこなかった私は、彼らの曲を表面的な
国語でしか理解しようとしなかった。言葉の意味、
サウンド面でのアプローチを聞こえるままに受け
取り、本質に迫る事をしなかったのだ。

 フジファブリックの魅力は、あの独特の"歌詞
(歌い方)"と"メロディ"にあると思う。志村正彦
(Vo&G)は、自身の内側に潜むひねくれた心情や、
人が目を付けない部分に着目し、それをきちんと
"言葉"にしてくれる。③「銀河」では、お経を読
むような一定の歌い方で”タッタッタッ タラッタ
ラッ タッタッ”と駆け足言葉で冬という季節を歌
い上げる。サビを駆け足にする発想と疾走感溢れ
るメロディラインが斬新で、何度も頭の中でルー
プした。⑫「茜色の夕日は」”防災無線から聴こ
えてくる夕方の音"を思い出させるシンセ音が印
象的だ。どこか懐かしく、歌詞も上京してきた私
には共感出来る内容で、”晴れた心の日曜日の朝
誰もいない道 歩いたこと”この一文が特にお気に
入りで、繰り返し聴いた。

フジファブリックをきっかけに、他の邦楽バン
ドや洋楽もかじるようになり、あの時理解出来な
かった⑩「虹」という曲が、こんなにもカッコい
いことに初めて気付くことが出来た。これからど
んな音楽が始まるのだろうとワクワクさせてくれ
るイントロに、危うく電車の中で飛び跳ねてしま
いそうになった。歌詞をすっ飛ばしてサウンドだ
けで音楽が楽しい、踊りたくなるような衝動は、
私がまさに”音楽に求めていたもの”だった。

 このアルバムは、聴けば聴くほど彼らの魅力が
滲み出てくる珍味のようなアルバムだ。現在、三
人で活動を続けるフジファブリック。新体制には、
初期の頃よりもテクノロック色の強い音楽性を感
じる。それは、フロントマンを務める山内を中心
とする制作に関わるメンバーの個性が強く出てい
るからだろう。新体制が奏でる音楽にも変わらず
魅力を感じるのは、『FAB FOX』のお陰で、様々
な音楽の楽しみ方や表現の仕方を知ることが出来
たからだ。フジファブリックが、私の人生を新た
なものに変えてくれたのだ。(酒井麻衣)

Perfume『GAME』(2008)

Perfume『GAME』(2008)

 アイドルでもないし、バンドでもない。「Perfume
という新たなジャンルを日本、そして今や世界に
まで浸透させている三人。私の人生に音楽という
楽しみを与えてくれ、夢を追い続けるひたむきな
姿勢をいつまでも私に見せてくれるPerfumeは、
まさしく私の人生を大きく変えてくれた。

 私が彼女たちを初めて知ったのは、中学生の時
に聴いた2nd album『GAME』である。全作詞作
曲、プロデュースに中田ヤスタカを迎えてから二
作目となるこのアルバムには、代表曲”ポリリズ
ム”、今やライブの定番ともいえる”チョコレイ
ト・ディスコ”などが収録されている。

 1曲目”ポリリズム”を聴いたときの感覚は不思
議なほどよく覚えている。三人のブレス音がかす
かに聞こえ、異なるリズムが重なりながら紡がれ
ていくのと同時に、三人のシンクロしたダンスが
印象的。この曲がきっかけで徐々に人気を博して
いったPerfumeにとって、”ポリリズム”は人生を
変えた大事な曲だとライブのMCなどでもたびた
び話している。ポップな曲とはガラッと変わる3
曲目”GAME”は、ハードなシンセとベース音が耳
インパクトを残す1曲である。強めな印象とは
また大きく変わり、6曲目”マカロ二”は、ピアノ
のメロディがレトロな雰囲気を出すとともに付き
合い始めの恋人を想う女の子の可愛らしい気持ち
が歌われている。柔らかいサウンドの不安定な感
じが、三人のエフェクトの少ないリアルな声と絶
妙に合い、アルバム全体のブレイクタイムのよう
になっている。ほとんどの歌詞が<take me
tonight>で構成されている8曲目”Takeme
Takeme”は、キュートでありながらセクシーで浮
遊感のある曲。シンプルなサウンドに単純な言葉
が重なり、これもまた違う魅力が感じられる楽曲
となっている。

 全13曲、自由なサウンドと三人の様々な表現に
魅せられるこのアルバムはPerfumeのこれからの
飛躍を暗示しているかのようにも思えた。私は当
時このアルバムを聴きPerfumeに出会ってから、
中田ヤスタカのサウンドと三人の唯一無二の存在
感に魅了された。しかしPerfumeの魅力は楽曲だ
けではない。かつては売れない時期が長く、苦労
を積み重ねてきた三人。だからこそ運命を変えた
代表曲への思い入れや、高みを目指していく謙虚
な姿勢がライブパフォーマンスや三人の言葉一つ
一つから感じ取ることができる。中学の頃から何
をやっても中途半端で、自分にはこれといった特
技やアイデンティティがないことに劣等感を感じ
ていた私にとって、音楽の世界という道をひたす
らに進み続ける三人はとても眩しかった。 

 Perfumeに出会ってからさらに音楽の幅は広が
り、いつしか音楽が私にとって自分を象徴するも
のになったのである。今年メジャーデビュー10
周年を迎えるPerfume。彼女たちは私にとって、
永遠の憧れだ。(真田あすか)

FUNKIST『SUNRISE 7』(2009)

FUNKIST『SUNRISE 7』(2009)

 「休憩時間じゃねぇぞー!」という声が聞こえ
た瞬間、私は脇目もふらずにモッシュピットへ駆
け出した。これが私とFUNKISTの出会いである。
地元長崎のフェスで初めて出会った彼らの音楽は、
当時ラウド・ミュージックに傾倒していた自分の
中へ驚くほどスムーズに染み込んできた。とりわ
け、ステージで披露された最初の曲「BORDER」
にのめり込み、これが音源を手にするきっかけに
なった。
                   
 音源を聴き始めた当時、私は歌詞よりも楽器隊
の織り成すリズム・メロディに注目していた。音
楽のルーツとしては、南アフリカ人のバレエダン
サーと日本人のフラメンコギタリストを両親に持
つボーカル・染谷西郷が中心となっている。アフ
リカ圏の民族音楽をイメージさせるリズム隊に、
明るくも切なくも聴こえるアコースティックなギ
ターの音色。草原を気ままに吹き抜ける風のよう
なフルートの音色。このアルバム唯一のインスト
ゥルメンタル曲「ケイジアに吹く風」を聴いて、
私はフルートに対するイメージが覆された。クラ
シックとは明らかに違う、荒々しさと力強さ。あ
んなに小さくか弱そうな楽器から、こんなに芯の
通った音が出せるのかと驚かされた。 
   
 そこに染谷のソウルフルで情感あふれる歌声と、
等身大の歌詞が混ざり込む。彼の紡ぎ出す言葉は
基本的にストレートだ。直球すぎて、時に痛々し
さすら感じてしまう。 
  
<傷つく度に僕らまた 優しさを覚え涙するんだ
な>(M1 GO NOW)         
<常識や世間の目 そんなのどうだっていいんだ
よ>(M4 style)   


 まるで必死に自分自身を鼓舞しているようだ。
一歩間違えばただの綺麗事にも聞こえてしまうよ
うな歌詞がこんなにも説得力を持って発されてい
るのは、彼自身がその見た目で差別を受けていた
過去が一端となっているだろう。「見た目が日本
人ではない」それだけで好奇の視線を浴び、時に
心無い言葉を浴びせられる。その時の心情を、私
には考えることしかできない。もしかすると、自
身に流れる異国の血を恨むこともあったかもしれ
ない。私がFUNKISTを知るきっかけとなった曲
「BORDER」。この曲はおそらく、染谷が生きて
いく中 で自分と他人の間に見つけた違和感を、
どうにかして飛び越えようとする姿そのものなの
だ。そのむき出しの心から、何に対しても逃げ腰
な自分の姿と向き合うことを教えてもらった。ま
っすぐな彼の声は今も、私の心を掴んで離さない。

 生活の中で、自分の心にもたくさんの違和感が
まるで壁のようにそびえ立っている。日常的に感
じる怒りや、夢へ向かうことへの恐怖感。それを
自覚するたびに、私は「BORDER」を聴いて自分
と向き合い、「GO NOW」を聴いて自分を奮い立
たせている。自分の心の壁を越えるため、これか
らずっと聴き続けることになる1枚だ。(加藤円)
  

19『音楽(ことば)』(1999)

19『音楽(ことば)』(1999)

 

 『音楽で話そう 言葉なんて追い越してさぁ…
この地球(ほし)の音楽(コトバ)で…』と朗読
から始まるアルバム。この当時私が30歳だったら、
きっと速やかにヘッドホンを外していただろう。

 19(ジューク)は、広島県出身の(岡平)け
んじ、(岩瀬)ケイゴによるデュオとヴィジュア
ルプロデュース、作詞を担当する佐賀県出身のイ
ラストレーター326(ミツル)の3人グループ
で、1998年にデビューを果たした。

 世間に出ている音楽は、自分がカラオケで歌え
るようになる為だけに聴くものだと思っていた私
は、SPEEDや安室奈美恵などを聴く事が多かった。
誰が作詞をして、誰が作曲をしている、なんて全
く興味がなかったし、1曲1曲が完璧に作り上げ
られ過ぎていて、人が音楽を作り出しているなん
て認識も全くなかった。最初から最後まで機械的
に出来上がったであろう流行りのCDをレンタル
して、せっせとテープに録音して、それをカラオ
ケで歌えるように練習するのが私の日常であり、
音楽との触れ方だった。

 そんな中、19の1stアルバム『音楽』と出
会った。この時彼らは「あの紙ヒコーキくもり空
わって」を既に大ヒットさせ、デビューからわず
か1年で紅白歌合戦への出場も果たしていた。今
更な感じはあったが、なんとなくその名曲が収録
されたアルバムを手に取った。高校1年生の冬休
み、生臭い鮮魚売場で生まれて初めてのアルバイ
トをして、生まれて初めてのお給料を受け取った
日だったのを覚えている。

 そのアルバムを聴くと、326・けんじ・ケイ
ゴは確かにそこに存在していた。326の背中を
押してくれるような優しい詩。けんじの少し不安
定な高音とケイゴの包み込むような暖かい低音の
声。それらと曲・演奏が融合し、各々の魅力を最
大限に引き出していた。「あの青をこえて」「西
前進2000年→~新~」「あの紙ヒコーキくも
り空わって」はシングル収録曲ということもあり、
恐らく思考錯誤が繰り返され、少し作り込まれた
感じがあったが、その分力強く、完成度の高いも
のになっていた。そして、音楽が最初から最後ま
で人の手によって生み出されている事を一番認識
させてくれたのが「三分間日記」だった。曲が始
まる20秒前からのメンバー同士の会話、作りす
ぎない演奏と歌声が収録されていた。この瞬間に
しか出せない未完成さが新鮮で、リアルだった。

 当時の彼らが作り出す『音楽』は、等身大で青
臭くて、切なくて、青春そのものだ。だからこそ、
もっと早く出会っていても、もっと遅く出会って
いても、きっとダメだった。ダサい制服に身を包
み、田んば道を必死に自転車で走っていた高校時
代でなければ、それを素直に受け入れる事は絶対
にできなかった。この『音楽』は”コトバ”と”音
楽”、そして”青春”が起こした化学反応であり、
いつまでも私の中に存在し続けるのだ。黒田ミキ