音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

Perfume『GAME』(2008)

Perfume『GAME』

「アイドルとは魅力が実力を凌駕している存在」
そう評したのはRHYMESTER宇多丸だ。実力よ
りも魅力のほうが上回り、その隙間をファンが応
援で埋めていく存在がアイドルであるという話を
聞いた時、顎が胸にめり込むほどに首肯した。私
がアイドルに抱いていた気持ちを、正に的確に射
抜いていたからである。

 田舎住まいでライブに行けず、ひたすらに音楽
雑誌を読み込んで様子を想像していた中高時代。
初めて念願のライブに行ったとき、バンドが奏で
る生音に圧倒された。その瞬間にしか流れない音、
生々しい息遣いの歌声。これこそが音楽の醍醐味
だと感じた。オケで歌うのを聞いたって何の意味
もない、口パクで踊るアイドルなんてばかばかし
い。そんなガチガチな私の価値観をあっさりと叩
き壊してくれたのがPerfumeで、私の人生を変え
た1枚は彼女たちの1stアルバム『GAME』だ。

 友人に勧められたものの「アイドルなんて」と
聴きもせず拒否しかけたが、テクノポップのピコ
ピコした、それでいて研ぎ澄まされたような硬軟
混ざり合うサウンドが、それまで聞いていたバン
ドとはまた違う魅力として響いた。電子音に女の
子の不安定な歌声が妙にバランスよくマッチし、
自分の中でだんだん心地よく馴染んでいった。

ポリリズム」「チョコレイトディスコ」と
Perfumeを表舞台へ引っ張り出した曲が目に付く
『GAME』。テクノポップの人工的な音に乗せ中
田ヤスタカの描く「PlasticSmile」「セラミック
ガール」など人工物に例えられた女の子の世界を、
生身の女の子たちが淡々と歌う。ステージでは人
形のような正確さでダンスを刻み、一歩間違えば
作り物過ぎて不気味にさえ映るところを、ぎりぎ
りで可愛い範疇にPerfumeは踏みとどまる。必要
以上にウエットにならないが故に、それが却って
生身の女の子の存在感や輝きを強める。聞き手に
感情の部分を委ねる余白を持たせたことで、より
鮮やかにPerfumeの描く世界は彩られるのだ。与
えられた歌を唄わされても、曲がオケであろうが
リップシンクだろうが、感動を与えるという力に
はまるで影響しないと言うことを教えてくれた。

 アイドルはバンドと違い、本人より周りの大人
の意向が優先されがちだ。更に年齢というタイム
リミットと戦いながら切磋琢磨していかねばなら
ず、だからこそ実力以上の輝きを増すとも言われ
る。Perfumeはアイドルではないという人もいる
だろうが、私は今もアイドルであると捉えている。
いつの間にか「アイドル」という看板をそっと下
ろしたように見えるPerfumeだが、冒頭の宇多丸
の提唱する定義に当てはめると、ますます伸びゆ
く実力を常に僅かに魅力が上回っていると感じる。
年齢に関わらず「アイドル」として、自ら道を選
択し長く愛される存在になると信じている。

 『GAME』は私のアイドルへの偏見を打ち砕き、
人生を変えてくれた一枚に他ならない。高野ゆり