音小屋・音楽ジャーナリストコース(小野島講座)

音小屋・音楽ジャーナリストコース(講師・小野島大)の受講生の作品を掲載していきます

東京カランコロン『We are 東京カランコロン』(2013)

東京カランコロン『We are 東京カランコロン』

 私が初めて見た2011年の時点でもう既に、イン
ディーポップバンドとして規格外に素晴らしい楽
曲を彼らは鳴らしていた。その時に新曲として発
表されたM-2”少女ジャンプ”という曲を聞いて、
不覚にも瞬間的に恋に落ちてしまったのを覚えて
いる。

 普段ラブソングを敬遠する人でも、押し付けが
ましい自我などから切り離された、ドキドキした
テンションだけを掬い取ってポップミュージック
に閉じ込めたこの楽曲の眩しさには多分抗えない
だろう。

 2人の優れたソングライターを中心に、非常に
高い楽曲のクオリティとコンスタントな制作ペー
スを維持してきた東京カランコロン。本作には名
曲”ラブ・ミー・テンダー”を含む『あなた色のプ
リンセス』のスマッシュヒットの後に発表された、
インディー時代のシングル2曲と今作に先立つ2枚
のメジャーミニアルバムの表題曲を含む全12曲が
収録されている。

 どの曲もライブの帰り道で歌えるような非常に
キャッチーなメロディと、その裏で変態的なフレ
ーズや独特のアイディアを過剰に詰め込んだ、手
練れの演奏陣による多彩なアレンジが特徴だ。男
女のツインボーカルがそれぞれ流動的に主旋律を
とりながら、要所では見事なハーモニーを聴かせ
てくれる。

 より多くの人へ、大きな舞台へ。彼ら自身が体
験した、90年代のメガヒットに溢れていた音楽シ
ーンの復古を標榜し、MCやインタビューでの発言
の際にも度々メジャーでの活動を強く意識した発
言をしてきた。M-1”いっせーの、せ!”の「さぁ
世界 動かせ 動いてみせよう」という言葉には、
新しいステージでも揺るがない自分達の音楽に対
する強い自信と、当時の活動における確かな充実
感が感じられる。

 リリー・フランキーや元チャットモンチーの高
橋久美子といった面々からの作詞提供を受けた曲
ではお互いの魅力を十分に引き出し合い作品に昇
華していた。特にM-9”泣き虫ファイター”のぴた
っとハマった言葉の置き方などは惚れ惚れする程
である。

 このアルバム以降は露出が増加し大舞台も経験
した彼らだが、それに呼応する様に楽曲の雰囲気
もガラリと変わる様になった。遊び心を目一杯詰
め込んでいだ歌詞とサウンドは圧倒的にシンプル
に、立ちはだかる苦悩さえも今はそのまま言葉に
乗せている。

 怖いもの知らずのインディーバンドから覚悟を
決めたメジャーのミュージシャンへ。このポップ
シーンをサバイブしてくるりのようなタフなバン
ドになれるのか、それともブレイクスルーして一
気にスターダムを駆け上がるのか。どちらにして
も更に成長する為には一皮も二皮も剥ける必要は
あるのだが、そんな大人の辛酸を舐める前の無邪
気さのような、のびのびとした自由な魅力が今作
には溢れている。(坂本正樹)